みあげればソラ
彼女の声を聞いて玄関に出てきたのは、美亜。
「ただいま、美亜。これお土産よ」
彼女は小さな旅行鞄から、空港で買ったチョコレートを手渡した。
美亜は大事そうに両手を添えて箱を受け取ると、『おかえりなさい』と、小さく頭を下げた。
「弘幸は仕事よね。
なんか家の中の雰囲気変わったけど、わたしが居ない間に変わったことは?」
くるりと部屋の中を見渡す彼女の横で、美亜が会話用の白板に文字を走らせる。
『女性が二人同居することになりました』
「いくつ?」
『十七歳と二十歳』
「また未成年なの?!
あなたの時で懲りたと思ったんだけど、バカ息子の辞書に経験という言葉はないようね。
で、二人は今どこにいるの?」
『沙希ちゃんは学校、由貴ちゃんは職探し』
「学校に行ってるってことは、親御さん達とは連絡が取れてるって思って良いのね。
あの子も経験から学んだってことかしら。
もう夕方だし、二人には帰ってきたら会えるわね」
彼女の言葉に美亜は大きく頷いた。
『二人ともいい子ですよ』
「あなたも寂しくないわね」
彼女がそう言うと、美亜は嬉しそうに笑った。