みあげればソラ
先に帰ってきたのは、山田沙希だった。
高校生の沙希はふっくらとした身体つきの大人しそうな普通の娘だ。
制服を乱れなく着て、化粧ッ気もまるでない。
この娘の何処に問題があるのか、彼女には皆目見当がつかなかった。
「はじめまして。
わたしは弘幸の母親で、袴田幸恵。この家の主です」
「はじめまして。お世話になってます。山田沙希です」
「沙希ちゃんは高校生?」
「はい、高校二年です」
「沙希ちゃんは、なんでこの家にいるの?」
「家出して、公園で凍えてたとこをヒロ兄に助けて貰って」
「ご家族は?」
「両親と弟が一人」
「家出の原因はなに?」
「……、あの家にわたしの居場所はないから……」
幸恵は無表情で淡々と答える彼女を見て、芯の強い子なのだと思った。
「学校はちゃんと通ってるのね」
「それがヒロ兄との約束だから」
「弘幸が?」
「ここに居たいなら学校へはちゃんと行けって」
「そう」
バカ息子も少しは成長したらしい、と幸恵は少しだけ安堵した。