みあげればソラ
ビルの建ち並ぶ繁華街を抜けて住宅街に差し掛かると、空気が一段と冷たくなる。
だが、空気の澄んだこんな夜には、良い月が拝めるものなのだ。
俺は期待を込めて、視界の開けた空を再び仰ぎ見る。
生憎と月の辺りに薄雲が掛かっている。
真綿で包まれたような月の影が、ぼぉっと浮かんで見えた。
「風よ吹け吹けぇ、お月さま今晩はぁ〜」
俺はポケットに手をつっこんだまま、上を向いてクルクルと回りながら歩く。
酔いも手伝って目も回る。
公園に差し掛かった頃、やっと雲間からお月様が顔を出した。
「良い月だねぇ」
俺は足を止めて月を見上げる。
――おっと、眩暈がするぜ……
月光を浴びて身を清める俺。
月明かりが木の陰を薄っすらと地面に映し出し、公園が少しだけ明るく浮かび上がった。
その時だ、公園のベンチに蹲る黒い塊がゴソゴソ動いて見えたのは。
「げっ?! お化け? それとも幽霊? まさかね」
俺の無意味に大きな声だけが空気に吸い込まれていく。
別にお化けが怖いわけじゃねぇ、そんなもんはなから信じちゃいねぇし。