みあげればソラ
「太一、合格おめでとう!」
合格発表から頬を赤らめ帰宅した弟の健闘を、沙希は心から喜んだ。
太一は、猛勉強の末、難関私立海星中学に見事合格したのだ。
小さい頃から物覚えの早かった太一は、何をやっても他の子供より抜きん出て優秀だった。
勉強でも、運動でも。
全てにおいて、普通かそれ以下の沙希とは明らかに出来が違った。
当然、両親の関心は弟の太一一身に注がれた。
幼少期から、英語会話にピアノにサッカーにと、休みなく習い事に連れまわされていた太一。
睡眠時間さえ削って時間に追われる彼の身体を、沙希は純粋に心配していた。
小学校入学後はそれに勉強が加わり、夜は塾通い。
分刻みで動く太一に合わせるように、山田家の一日は太一で始まり太一で終わる。
沙希はその合間で呼吸していた。
それが沙希の生き方だった。
太一は沙希にとっても自慢の可愛い弟だ。
「お姉ちゃん」と沙希を慕う太一の笑顔が、彼女の拠り所でもあったのだ。