みあげればソラ
合格の日を境に、張り詰めた家の空気は一気に緩んだ。
父も母も浮き足立っているのがわかった。
親戚からの祝いの電話を受ける母の声は、明らかに一オクターブは高い。
「ありがとうございます……、いえそんな……、いいんですか?」
楽しみにしております、と電話に深々と頭を下げて母が受話器を置いた。
「太一、お婆様が合格祝いにお食事に呼んでくださるって」
興奮して上気した母の顔は、少しだけ若返ったように見えた。
——良かった。
沙希は心からそう思った。
父方の祖母は、母が高卒の事務員だったことを理由に父との結婚に反対したのだと聞いていた。
勘当同然に父と一緒になった母が、ずっと肩身の狭い思いをしてきたことを沙希は知っていた。
だから、母が子供の学歴に人一倍敏感なのは仕方の無いことだと、彼女は子供心に納得していたのだ。