みあげればソラ
<プルルル……、プルルル……>
何度かけても繋がらない携帯を諦めて、弘幸は何年かぶりに家電に電話をかけた。
幸恵の仕事上ファクスが必要だったので、ファクス兼用電話が袴田家には残されていた。
『はい、袴田です』
『あ、俺』
『ヒロ兄?!』
『なんだよお前、携帯全然繫がらねぇじゃん』
『あ、ゴメン。充電切れてて』
『それじゃ役にたたねぇだろ。彼氏とかからメール来るだろ?』
『ヒロ兄、あたしに彼氏居ないの知ってて言ってるでしょっ!』
『ハハハ……、もしかして出来たかなぁ~ってさ』
『ヒロ兄、いつ帰ってくるの?』
『あぁ〜、そのことだけどなぁ〜、俺この連休は帰れねぇんだ』
『えっ……』
『わりぃ……、やっとデートに漕ぎ付けたんですっぽかせねぇんだわ』
『デートか、なら仕方ないね』
『なんならお前が遊びにくるか? 東京へ』
『えぇ〜、止めとく。邪魔しちゃ悪いし。当てられるのやだし。
だいたい寮に泊まれないじゃん』
『妹だって言えば、大目に見てくれるだろ』
『ヒロ兄とあたし、似てないし』
『似てなくたって兄妹だろ』
『疑われるのやだし……』
『亜里寿?』
『大丈夫、部活もあるし寂しくないよ』
『そうかぁ』
『彼女さんにヨロシク。いつか会えるといいな』
『うん、上手くいったら今度連れてく』
『ヒロ兄……、頑張ってね。
ヒロ兄は優しいし、男前だし、大丈夫、きっと上手くいくよ』
いつもは兄に対しては我が侭を言う亜里寿が、不思議と簡単に引き下がることに弘幸は気がつかなかった。
自分の都合の良いように状況を解釈し、彼女の嘘を見抜けなかった。
そして、彼は大切な妹を失った。