みあげればソラ

「ミアァ〜、腹減ったぁ〜」

仕事から帰るなり、弘幸は甘えた声で美亜に食事をねだった。

キッチンで待ち構えていた美亜は、テキパキと慣れた手付きでご飯をよそう。

彼女にとって家事は日常だったし、料理を作るのは好きだった。

今日はカツ丼と海老とアボガドのサラダだ。

決して健康的とは言い難い弘幸の生活の中で、栄養面で気を配るが自分の役目だと美亜は考えていた。

ご飯の上に千切りのキャベツを敷き詰め、その上に卵で閉じた汁だくのカツを乗せた。

「おぉ〜、美味そ〜」

上機嫌でカツ丼をかきこむ弘幸の様子を、美亜は幸せな気持ちで見つめていた。


美亜がこの家に住むことになって半月。

弘幸は駅前のホストクラブで働き出した。

定収を得るのが第一の目的。

それが幸恵に出された、美亜との同居の第一条件だった。

親のすねかじりのお子様に勝手な真似はさせない! という母としての意地。

言い出したら後には引かない母の性格を、弘幸は熟知していた。

だから、迷わず短時間で高収入を得る為、手っ取り早く夜の仕事を選んだのだ。


全ては美亜を守るため。


再び自分に与えられた守るべき者を、手放す選択肢など有りえなかった。
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