みあげればソラ
大学を中退した弘幸には見栄も外聞もなかったし、何より彼の見た目がこの仕事を推奨していた。
「お前なぁ〜、よりにもよってホストかよっ!」
親友の坂田は呆れたように叫んだけれど、弘幸は案外自分にはこの生業が天職なのではないかとさえ思っていた。
女受けする甘いルックに、高い知性を合わせもち、物腰はそつなく話題に事欠くことはない。
『美幸さん、いらっしゃい。
今日は先物相場、乱高下してましたものね、気張ってお疲れでしょ。肩揉みましょうか』
『小百合さん、お誕生日おめでとうございます。
今日は貴方が生まれてきたことに感謝する日。一緒に祝わせてください♪』
弘幸に付く客は、社会的地位の高い独身熟女が多かった。
母の働く背中を見て育ったせいか、彼にはこうした女性達の抱える苦労や悲哀が手に取るようにわかったのだ。
ホストを仕事として割り切る弘幸は、女を酔わせども酔わされることはなかった。
女達はそんな彼の立ち位置を認めた上で、彼に癒しを求めていた。
彼は一杯のビールで機嫌よく立ち回れたし、女達を盛り上げその財布の紐を緩めさせることが出来た。
弘幸はそれが彼女達のストレス発散になることも心得ていた。
持ち前の生真面目さで立ち回る弘幸の様子は、差し詰めサバンナを駆る……
「ジョー、貴方ってまるでチーターね」
店長のマサルは弘幸を評してそう言った。