みあげればソラ

「美味かった。やっぱりミアの作る飯は格別だな。

さ、一休みしたら、勉強始めるか」

帰宅後、夜中から明け方にかけて、弘幸は美亜の勉強をみるのを日課としていた。

高校を中退せざるを得なかった美亜に高等学校卒業程度認定試験を受けさせる為だ。

「おぉ〜し、宿題はちゃんとやってるな。

えらい、えらい」

頭を撫でられて、美亜もまんざら悪い気はしなかった。

昼夜逆転の生活だったけれど、弘幸が仕事に出ている間は自習の時間に当て、美亜も勉強に熱心に取り組んでいた。

勉強が嫌いだった訳じゃない。

外に出ることが怖かったのだ。

何時、何処で、あの男に遭遇するかわからない。

何時またあの関係を強要されるかわからない。

あの場所に引き戻されるのが怖かった。

学校は諦めた。

ここで、ひっそりと弘幸に守られて生きていく。

今はそれで精一杯だった。

「馬鹿、ここマイナス抜けてるぞ。バツ2個目」

美亜の白い手に、赤ペンでバツが付けられる。

いつか、また、外の世界へ戻れる日が来るかもしれない。

希望は捨てちゃ駄目だ、と弘幸は言った。

その為の努力は惜しまず励め、と弘幸は美亜の背中を押した。

俺がいくらだって助けてやる、弘幸はその言葉を日々実践していたのだ。

「80点か。まあまあだな。じゃ、次の単元いくぞ」

弘幸の大きな手が、次のページをめくった。
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