みあげればソラ

塗れた髪から、肩に雫が滴り落ちた。

後先考えずに大胆な行動をとる割りに、俺は気の小さい臆病者なのだ。

「ちっ、折角温まったのに湯冷めするだろうが……、って何すんだよ!」

そんな俺の呟きの上から、タオルがバサリと落ちてきた。

ついでに髪をガシガシと拭かれる。

「な、なんだよ、美亜か。でかい声だして悪かったよ。でも、そいつの身元がわかんなきゃ、仕方ねぇだろ」

美亜はでかい声が嫌いだ。俺を見上げる彼女の目には、強い抗議の色が見てとれた。

「もういい、後は自分で拭けるから」

そう言って、タオルを美亜から奪い取り首にかけた。

見ると毛布にくるまれた塊がモゾモゾと動いている。どうやら少女も目覚めたらしい。

「気がついたんだな」

小さく頷く美亜の手の中には、タオルと着替えが握られている。

「そうだな、美亜、温めてやってくれ」

毛布を被った彼女の肩を抱くように、美亜はゆっくり歩き出した。

本人が気がついたなら、身元も割れるだろ。

焦って坂田を急かして悪かったな、と素直に反省する小心者な俺。

美亜の方がよっぽど肝が据わってる。


俺は仕事で疲れた心と頭を休めるべく、ソファに身体をを沈ませた。


< 8 / 207 >

この作品をシェア

pagetop