みあげればソラ
塗れた髪から、肩に雫が滴り落ちた。
後先考えずに大胆な行動をとる割りに、俺は気の小さい臆病者なのだ。
「ちっ、折角温まったのに湯冷めするだろうが……、って何すんだよ!」
そんな俺の呟きの上から、タオルがバサリと落ちてきた。
ついでに髪をガシガシと拭かれる。
「な、なんだよ、美亜か。でかい声だして悪かったよ。でも、そいつの身元がわかんなきゃ、仕方ねぇだろ」
美亜はでかい声が嫌いだ。俺を見上げる彼女の目には、強い抗議の色が見てとれた。
「もういい、後は自分で拭けるから」
そう言って、タオルを美亜から奪い取り首にかけた。
見ると毛布にくるまれた塊がモゾモゾと動いている。どうやら少女も目覚めたらしい。
「気がついたんだな」
小さく頷く美亜の手の中には、タオルと着替えが握られている。
「そうだな、美亜、温めてやってくれ」
毛布を被った彼女の肩を抱くように、美亜はゆっくり歩き出した。
本人が気がついたなら、身元も割れるだろ。
焦って坂田を急かして悪かったな、と素直に反省する小心者な俺。
美亜の方がよっぽど肝が据わってる。
俺は仕事で疲れた心と頭を休めるべく、ソファに身体をを沈ませた。