みあげればソラ
「由貴、なんでお前がここにいるんだよ!」
呼ばれて初めて、顔を上げた。
店長のマサルに「変な客がいる」と耳打ちされて様子を見に来た弘幸が、彼女の名前を呼んだのだ。
「なんだ、ジョーの知り合い?」
「ジョー?」
聞きなれない呼び名を、恐る恐る声に出してみる。
勢いで店の扉をくぐったものの、あまりの場違いさ加減に気後れして、由貴はずっと俯いたままでいたのだ。
何がどうしてこんなことになったものか、何で自分がここにいるのか。
自分でも何が何だかわからなかった。
ピカピカの派手なスーツに身を包み、金色の髪をオールバックに流して別人になった弘幸を見たかったのか。
「この時間は勉強してるハズじゃねぇのか? ミアはお前がここに居ること知ってるのか? まさか、黙って来たわけじゃねぇだろうな!」
捲し立てられて、視線は自ずと下向きになる。
「だ、だって……」
「だって何だ?」
「だ、だって、わ、わたしだって……」
「ここはな、金もった女が男遊びをしにくる場所なんだよっ!
お前が来るようなところじゃない!!」
「わ、わたしだって、お、男くらい……」
声になったのはそこまでだった。
その後は言葉が続かなくて涙が頬を伝って落ちた。