みあげればソラ
「こ、これがわたし?」
「そうよ、少しは自信がついた?」
女は見た目も大事よね、と勝が鏡の中で笑っていた。
こうして見ると、彼は全く普通の男の人に見える。
「なに? 今度はあたしの値踏み?」
「い、いえ、滅相もないです。でも、マサルさん、男としても素敵なのにと思って」
「あら、褒め上手ね。お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞なんかじゃありません!」
「あたしは、ほら、今流行の性同一性障害ってやつ?
男として生きてきた期間が長いから、すんなり女になるっていうのにも抵抗があって。
だから、どっちつかずって感じ?
男の良さも、女の狡さもわかるから。
でもやっぱり普通じゃないわね」
と豪快に笑うその笑顔には飾ったところが微塵もなくて、由貴はとても心が安らいだ。
「わたしは、マサルさんが男でも女でも、素敵だなって思います」
「そう、ありがと。ほんと由貴ちゃんは良い子ね。やっぱり食べちゃおうかしら?」
勝が由貴をからかう様に、その身体に覆いかぶさった時、居間のドアが勢いよく開いた。
「勝兄ちゃん、居る?」
由貴は聞き覚えのあるその声に、まさかという思いで入口を振り返った。
「ユキ?!」
「ユウちゃん?」
そこには、会いたくて堪らなかった懐かしい彼の姿があった。