桜の下で ~幕末純愛~ 番外集
「そうか」



土方はそう言うと柔らかい眼差しを向ける。



「俄かに信じ難い話でもあるが、信じるしかねえか。で、どうやって帰りゃいいんだ」



ふと天を仰ぎ溜め息を漏らす。



「さあ、どうしたらいいんでしょうね」

「てめえは呑気に構えてやがるな」

「そうですかね?ま、私はもうじきですよ」

「なっ、帰れるのか?!」



土方が身を乗り出す。



「近いですよ。土方さんが帰れるかは分かりませんけれどね。あの木が導いてくれますから」



沖田が庭に向かう。



「桜、か」



土方も後に続き庭に出た。



「時渡りの意味は未だに分かりませんが、此処での日々はとても良い思い出になりそうです」



木の幹に手を充て、咲き始めた桜を見上げる沖田。



「そうか。この時代はお前にとって……」



土方が言おうとした時、くるり と桜の花びらが土方の足元で舞う。



「フッ、俺はもう帰れるみてえだな」

「そのようですね。私ももう暫くしたら戻りますから」

「ああ」



風に吹かれた花びらが消える様に土方の姿は消えていった。



「何しに来たんですかね、本当に」



庭先でクスリと沖田が笑った。



ー了ー



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