死の百物語と神は云う。
 生まれながら病持ちのその子は、ずっと病院の中で暮らしているんだ。

 1度も外に出たことがない。いつもベッドの上から外の景色を眺めていたんだ。

 そんなその子の前に、僕がトウジョーってワケ。アレ?白馬の王子的な?違う違う。たまたまだよ、たまたま。

 その子は死にたいのに、外にはおろか、病室からだって出られないから、死ぬに死ねない生活を送っていたんだよ。

 だから僕は言ってみた。


「殺してあげようか?」


 そしたらその子、満面の笑顔で「うん」ってうなずいた。

 フツー、ありえないよね。満面の笑顔で殺しを請うなんて。

 え?……ああ、その後?死んだよ。

 僕は手は出してないよ。

 “直接的”には。

 死のお手伝い――病室の屋上に連れていっただけ。

 そしたらその子、僕を一瞬だけ見て「ありがとう」と言って笑ったかと思えば……。

 走って屋上から飛び降りた。

 これが僕の印象に残っている人間の死に様かなぁ。

 だってその子、蝶が羽ばたいたかのようにキレイだったんだもの。

 ふぅーっ!



 1本目の蝋燭の火が消えた。
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