【短編】ある日、それは突然に
 コウタがナツミのいるこの会社に入社して来たのは、1年前のことであった。


入社式の時に相変わらずの人なつこい笑顔のコウタを見つけたとき、

思わず「あっ」と小さく声をあげてしまった。


コウタの、他の人には悟られない素早さで出したVサインに、ナツミは不謹慎にも笑ってしまいそうになるのを必死な面もちで我慢したものだった。


学生時代、同じスキー部に籍をおき、3年間を先輩後輩として、一緒に過ごした仲であった。


5年ぶりの出会いであった。


コウタは、偶然にも同じ商品企画の課に配属になり、この一年コウタに手取足取り仕事を教えてきたのだった。


いまや課内では最強の凸凹コンビと呼ばれている。ともすれば、走りがちになってしまうナツミをコウタが押さえる。


コウタののんびり加減をナツミが尻をたたいて後押しをする。


課内の宴会でも最強コンビぶりを遺憾なく発揮しては、やんやの喝采をあびる。


コウタが入社して以来、課内の雰囲気もやわらかくなったような気がする。


そういえば、コウタの笑顔には大学時代から救われてきたなとナツミは思う。
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