始まりのチョコレート
こんなに矢野くんと会話をしたのは初めてだ。
誰かが気を利かせて開いてくれた飲み会でも、彼のとなりには常に誰かがいて、喋れないということが続いていた。
だから、まさかこんなに自然に話ができるものだったなんて、自分でも驚いている。
でも、自惚れてはならない。
矢野くんは、可愛いとか、平気で言うけど、それは決して特別な言葉なんかじゃない。
彼は、誰にでもこうだから。
だから、もう少し。
もう少し頑張って、本気になってもらわなくちゃ・・・。
いつも嗅ぎ慣れた煙草の匂いが、まるで知らないもののように感じられて、これが恋だったのだと再認識させられた。
これが、今まで避けてきた、あの面倒臭い、恋なのだ。
はぁ・・・
口からこぼれた溜め息は、決してピンク色なんかじゃなくて、ネガティブなものだと、自分で自覚できてしまった。