始まりのチョコレート





矢野くんと入れ代わりで次にやって来たのは、中谷だった。
普段、煙草なんか吸わないくせに。
それどころか、極度の嫌煙家なくせして、一体何しに来たのだ。
どうせまた、嫌みでも言われるんだろう。
じゃあ私も嫌みたっぷりに煙草を吸ってやろう。
新しい煙草に火をつけた私の横に、中谷は腰を下ろした。
さっきまで、矢野くんがいた場所だ。


「何しに来たの?」


煙草をくわえたままの口で訊ねれば、中谷は、「俺、あいつ嫌い」とまるで返答になってない返答をする。
私はお前が嫌いだ。
そう思ったけど、あえて言わないでおいた。


「どうせ、矢野くんが人気者だからひがんでるんでしょ?見苦しいよ、そういうの」

「そんなん、ちゃうし」

「じゃあ何?」

「何って、」

「何?」

「・・・お前があいつのことばっか見るから、」

「・・・ん?何?」

「や、やっぱ、なんでもない」


低い声でボソボソ言われたって、なに言ってるんだか聞き取れるわけないって。
でも、そりゃ中谷がひがんだって仕方無いくらい、矢野くんは、優しくて、可愛くて、イケメンで、モテる。
ひとつくらい分けてあげたらいいのに。
どうやら神様は、意地が悪いらしい。




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