だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
『お疲れ様』
電話に出た声に一瞬どきりとした。
受話器越しに聞く声は、ずっしりと胸に響く。
「お疲れ様です。今日は終日外回りじゃなかったんですか?」
『あぁ、一件リスケになったからな。それより、休みに電話なんてしてくるなよ。寂しいヤツだな』
そう言って、櫻井さんはふっと笑った。
その声が意地悪く響くけれど、どこかほっとしているようだった。
予想外の人物に驚きながらも仕事の状況を確認する。
次々に報告される事項に、今私のやることがほとんどないことを理解する。
私がお休みを貰っている間は本当に何もかも完璧にしてしまえる。
そんな櫻井さんをとても尊敬している。
『で、今年はどこに行くんだ?』
――――――『今年は』、か――――――
簡単に告げられたその言葉も、毎年の私の旅行を知っているからいえる言葉だ。
今まで見てみぬ振りをしていたのに。
今年は敏感にそれを感じ取るのが、なんだか悔しかった。
「秘密です」
ばっさりとそう言うと、受話器の向こうで櫻井さんは楽しそうに笑っていた。