だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
学校の前ですぐにタクシーを拾おうとしたけれど、たまたまタクシーは通ってくれなかった。
仕方なくタクシー会社に電話をして、校門の前で待つことにした。
お父さんは、湊は大丈夫だ、と言った。
隣でママが泣いている声が聞こえたけれど、それでも。
お父さんは、私に嘘をついたりしない。
だから、信じてる。
最近の頭痛がどうの、とか。
精密検査をしているからどうの、とか。
検査入院の必要があるだろう、とか。
お父さんはゆっくり説明してくれたけれど、専門的な知識についてはよくわからなかった。
ただ、冷静すぎるお父さんに、症状はあまりよくないのかもしれない、とぼんやり思った。
タクシーに乗り込んで、みんなが待っている病院の名前を告げた。
静かに走り出したタクシーの中にいるはずなのに、何の音も聞こえなかった。
「お見舞いですか?」
何気なく質問をしてきたタクシーの運転手は、とても明るい声をしていた。
その声が、鼓膜にこびりついて剥がれない。
「兄が運ばれたんです」
何の感情もない声で告げると、その人は驚いた声を上げて何か言っていた。
けれど、それを受け止める事はなかった。
どこか上の空で返事をしていると、途中から声が聞こえなくなった気がする。
最初に聴いた明るい声が、耳の中で響いていた。