だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
病院に着くと、私の顔を知っている看護婦さんがお父さんたちの部屋まで案内してくれた。
慌てる様子もない私を見て、安心したように看護婦さんは笑った。
そして、ゆっくりと私の前を歩いていった。
その背中をじっと見つめながら、ただ動く身体に合わせて息をしていた。
案内されたのは、五階の角の個室。
五階はお父さんの受け持ち病棟だ。
小さい頃から、何度もここに来たことがある。
個室ばかりが並んでいて、なんだか寂しくなったのを憶えている。
「ここですよ。山本先生、時雨さんお連れしました」
その声と同時に、ガラリと扉が開いた。
目の前には、お父さんに抱きかかえられたママ。
泣いた後のようで、目と鼻を真っ赤にしている。
とても美人なママは、泣いていてもとても綺麗。
ふと、ベッドに目線を移す。
白いベッドの上には知らない人がいる。
左腕に細い管を通されて。
口には緑色のプラスチックが乗せられている。
規則的な機械音と管の中を空気が通る音。
ベッドの上の緑色の筒の中で、水と空気がごぼごぼ、と音を立てていた。
扉の中に入ろうとしない私に、お父さんが近づいてきた。
ママも一緒に。
現実味もないまま、二人の間に立っていたけれど、その部屋に入ることは出来なかった。
一歩も。