だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





「お父さん、嘘つくの全然上手くならないね。患者さん、すぐ気付いちゃうよ?」




明るい口調で、でも、どこか醒めた口調で告げる。

お父さんは、まいったな、という顔で笑っていた。


ママは少し動揺していたけれど、何も言わず私たちの様子を見ていた。




「大丈夫だよ、ママ。お母さんの時も、お父さん、嘘つくの下手でびっくりしたんだから」




幼心に思っていた。

お父さんは嘘がつけない人だ、って。

思っていることが全部、顔に出てしまう人。


この人の血を色濃く受け継いだ私も、また同じ。




「まだ、回復の余地はあるから」




その言葉に、今度こそほっとする。

手の施しようがない、なんて言われたら、私はこのまま息が止まってもいいと想った。





ウィリス動脈輪閉塞症
(ウィリスドウミャクリンヘイソクショウ)。

別名、もやもや病。

内頚動脈(ないけいどうみゃく)終末部付近より前、中大脳動脈(ちゅうだいのうどうみゃく)および後交通動脈(こうこうつうどうみゃく)へと閉塞性病変が進行していく。

頭蓋底部の側副血行(そくふくけっこう)による血管網が脳血管を撮影した際、もやもやと写ることから、もやもや病。




難しくてよくわからなかったけれど、脳の血管が少しずつ閉じていくような感じらしい。

一気に発症すれば脳梗塞になる。

脳疾患のひとつだ、ということは理解出来た。




お母さんは、ウィリス動脈輪閉塞症で死んでしまった。

沢山調べたから、憶えている。

お父さんの持っている参考文献を、見飽きるほど何度も読んだから。




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