だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





「とりあえず検査入院で様子を見よう。影も薄いようだったから、つい最近発症し始めたばかりかもしれない」


「わかったよ。その辺はお父さんに任せる。私、湊のところに行くね。ママは、お父さんとここにいて。少しゆっくり湊の傍にいたいから」




そう言うと二人はにっこり笑ってくれた。

それに、満面の笑みを返す。

そっとナースステーションを抜けて、湊の個室へと足を進めていった。




一歩踏み出すごとに気持ちがはやる。

その度に感情が溢れる。

真っ白だった気持ちが、少しずつ黒くなってくる。




早く湊に逢いたい。




そればかりが溢れて、それなのに身体が重いことが煩わしかった。

動けば動くほど、心臓と自分の呼吸が五月蝿かった。



目の前が霞んで、意識を保っているのもやっとなのに。

お父さんの声が、ママの息を呑む音がやたらと響いていた。




「大丈夫」




そう、しきりに呟いて。

ほんの少しの距離のはずなのに、一向に部屋に着かない。

全然、進まない。




逢いたい。




逢いたいよ。




逢いたいよ、湊。




早く、逢いたい。




早く、触りたい。




今すぐ。




< 107 / 276 >

この作品をシェア

pagetop