だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「とりあえず検査入院で様子を見よう。影も薄いようだったから、つい最近発症し始めたばかりかもしれない」
「わかったよ。その辺はお父さんに任せる。私、湊のところに行くね。ママは、お父さんとここにいて。少しゆっくり湊の傍にいたいから」
そう言うと二人はにっこり笑ってくれた。
それに、満面の笑みを返す。
そっとナースステーションを抜けて、湊の個室へと足を進めていった。
一歩踏み出すごとに気持ちがはやる。
その度に感情が溢れる。
真っ白だった気持ちが、少しずつ黒くなってくる。
早く湊に逢いたい。
そればかりが溢れて、それなのに身体が重いことが煩わしかった。
動けば動くほど、心臓と自分の呼吸が五月蝿かった。
目の前が霞んで、意識を保っているのもやっとなのに。
お父さんの声が、ママの息を呑む音がやたらと響いていた。
「大丈夫」
そう、しきりに呟いて。
ほんの少しの距離のはずなのに、一向に部屋に着かない。
全然、進まない。
逢いたい。
逢いたいよ。
逢いたいよ、湊。
早く、逢いたい。
早く、触りたい。
今すぐ。