だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





『だよな。まぁ、気をつけて行って来い』



「・・・はい。櫻井さんも、仕事よろしくお願いします。お休み頂いて、ありがとうございます」




そう言うと満足そうに、あぁ、と応えてくれた。

少しの沈黙の後、簡単に挨拶をして電話を切った。




櫻井さんの声が少しだけ耳に残っている。

それを振り払うように地下鉄の駅のホームに降り立った。

目の前を通り過ぎる大きな音に、さっきまでの電話の声は少しずつ薄れていった。




平日のお昼間の地下鉄はとても人が少なく車内はがらんとしていた。

邪魔にならないようにキャリーを置いて一番端に腰掛ける。




車内には広告が沢山あり、

【秋本番!】

【お得な紅葉ツアー♪】

などの文字が多く見られた。



京都、奈良、滋賀、神戸。

鎌倉、軽井沢。

函館、釧路、帯広、旭川。




色とりどりの写真に沢山の地名が並んでいる。

紅葉を見に出掛けたことなんてないな、と考える。

見渡せば、いつも季節を感じられる場所にいた。

そのせいかも知れない。



公園や街路樹が、いつも季節の移り変わりを教えてくれた。

今日の目的地も名前にあったが、まだ紅葉の時期には早い。




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