だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
窓側のソファーからそっと立ちあがる。
少し足取りはおぼつかないけれど、何とか歩けた。
反対側のベッドの端に円盤のような椅子を近づけて、湊の手を握る。
いつもとは逆の、握りなれない湊の右手。
点滴が邪魔して、左手に触れないのだから仕方ない。
相変わらず冷たい手に、少し笑いがこぼれる。
「不健康な手」
そう言って、また涙が溢れた。
冷たくてもどこか温かい。
早く目を覚まして欲しかった。
両手でぎゅっと握り締め、自分の顔をベッドに寄せる。
泣きすぎたせいで、頭が痛い。
割れるように、がんがんする。
「頭、痛いよ」
ぼそりと呟く。
頭を撫でて。
背中をさすって。
それから抱き締めて。
こんなに自分がわがままだったかな、となんだか恥ずかしくなった。
ただ、そこで笑っていてくれればいい、と想っていたのに。
ただ、生きて傍にいてくれればいい、と。
その存在があればいい、と。
それなのに。
生きているとわかった途端、目を覚ましてして欲しいことが沢山あるのだ、と知った。
我が儘で自分勝手。
結局、私はそんな風なのだと知った。
それを受け止めてくれるのは、湊しかいないのだと。
そんなことを考えながら、疲れ切った身体から意識を手放した。