だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「お待たせしました」
最上階のバーでビールを飲んでいる櫻井さんに声をかける。
窓に当たる雨の音は、店内を物悲しい雰囲気にしていた。
タバコの煙の中の人物は、軽く笑って隣の席を促した。
「悪いな、付き合せて」
「いいえ。大丈夫です」
そう言って、櫻井さんの左隣に腰掛ける。
店内に人は少なく、カウンターにちらほら人がいる程度だった。
「レッドアイをお願いします」
コースターを置いてくれるバーテンダーに向かって注文をする。
優しく笑う顔につられて、私も柔らかく笑顔を返した。
その向こうの窓には、流れる水の中に小さな光が見えていた。
「廣瀬が、想像通りの人でした、って」
「よかったです。落胆の言葉じゃなくて」
櫻井さんが満足そうにそう言った。
その横顔は、部下を褒められて嬉しい、という上司の顔をしていた。
コースターの上に置かれたレッドアイのグラスを持って、櫻井さんに掲げながら笑う。
さっきまでの空気を払うように、いつも通りの顔でその目を見つめる。
かちり、とあわせられたグラスに口をつける。
軽めのお酒は、寝起きの私に丁度いい。
冷たい液体は身体にそっと落ちてきた。