だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「それと、俺に余裕がないのが面白かった、って」
そう言った櫻井さんは、とても楽しそうに笑っていた。
気を許した友人との時間のせいか、いつもよりも幼く見えた。
「余裕がなかったんですか?いつも通りに見えてましたけど」
疑問に思って問いかける。
確かにくだけた感じではあったけれど、櫻井さんの仕事ぶりに変わりはなかった。
廣瀬さんも、櫻井さんのことを信頼しているのがよくわかった。
「仕事のことに関しては、な。ただ、しぐれの話になると別だ」
そう言われて、また意識をする空気が張り詰める。
簡単に私を緊張させるこの人に、いつも悔しくなってばかりだ。
「廣瀬の意地の悪いこと。さっき言われたよ。ポーカーフェイスが聞いて呆れる、って」
ポーカーフェイス。
櫻井さんは本当にいつもポーカーフェイスだ。
本当の顔を隠して、いつも違う顔を持っているのだと思う。
だから、振り回されてばかり。
こんなにも一挙一動に反応してしまう。
「廣瀬がしぐれを気に入るだろうな、と思ったよ」
「そう、なんですか?」
「あぁ。あいつに近づくような女って、甘えてくるようなのばっかりだから。寂しいから傍にいて、みたいな」
女なんて誰でもそんな風に想っているのではないか、と思う。
一人で平気な夜なんて、むしろ少ないのではないだろうか。