だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「でも、しぐれは違う。あからさまに人に寄りかかったりしない。自分の気持ちを抑えられるだろう?」
「そんなことないですよ」
櫻井さんの方を見ずに言う。
「寄りかかって駄目になる時だって、沢山ありますよ」
「少なくとも、俺は知らない」
二人とも真っ直ぐ前を見ていた。
隣の気配を感じてはいたけれど、あえて気にしないふりをしていた。
「湊さんしか、知らないんだろうな」
そう言われて、そうかもしれない、と想う。
色々なことがあって、色々な人がいて、ただ抱いて欲しい時はあっても、縋ったわけじゃない。
ただ、そうしたい、と想っただけだ。
自分の感情を押し付けるようなことは、他の人にはしていない。
いや、したくない。
わかって欲しい人は、一人でいいと想っているから。
「否定くらいしろよ」
乾いた笑いと、乾いた声が聴こえた。
この人に嘘をつくのは、私にとってとても難しいことだった。
「否定したら、信じてくれますか?」
「信じないけど、嘘でも救われる」
救いの手を出すことは、この人に寄りかかるのと同じ事のような気がした。
目の前のレッドアイを流し込んで、吐き出したい言葉も一緒に飲み込んだ。