だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「そんなつもりじゃ・・・ただ、病室では我慢しなくちゃって」
「そんなの関係ない。だって、今は雨が隠してくれてる」
そう言って湊はぐいっと顔を近づけてきた。
けれど、どの部分も私に触れることはない。
鼻もおでこも。
頬も唇も。
目を大きく開けた私を、湊が覗き込んでいる。
ガラス玉の綺麗な瞳。
色素の薄い、湊の目。
そしてすぐに私から離れて行く。
何にも触れず、息のかかる距離から、それすら届かない距離へ。
胸が苦しくなった。
湊に触りたくて。
腕で触れるのではなくて、違うところで。
「ねぇ、時雨。どうしてもダメ?」
本当に狡い。
そんな声を出されたら、許してしまうに決まっている。
こんな可愛いおねだりなんて、されたことがなかった。
だから、なんでも叶えてあげたいと想ってしまった。
私にしか出来ない、湊の喜ぶこと。
気付けば私は、湊とキスをしていた。
自分から顔を寄せることが、こんなに恥ずかしいなんて知らなかったけれど。
目の前で私を待っている湊を見て、たまらない気持ちになった。
抱きしめられた腕からは、いつもの湊の匂いがした。
安心できる、この胸の中。
薄く混ざった消毒液の匂いをさせていたけれど、それでも。
此処にある湊の体温が、これ以上無い程大切なものなのだ、と想った。