だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





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「俺の顔に何かついてるか?」




じっと見つめたまま、櫻井さんに言われた言葉がぐるぐると回っていた。

困ったような顔をした櫻井さんを見て、なんだか無性に切なくなった。



冷静にならなくては、と目を逸らしてレッドアイに手を伸ばした。

その手はグラスをつかむ前に櫻井さんに押さえつけられてしまった。



掴まれた手は、ひんやりと冷たい。

湊ほどではないけれど、同じような体温に抗うことが出来ない。




「何に動揺した?」




問いかけられた言葉に、また動揺する。

掴まれた腕を振り切ることすら出来ない。

櫻井さんの言葉は、私を責めるような口調はしていなかった。



だからこそ、突き放すようなことさえも言えずにいた。




「時雨」




響いた名前は有無を言わさない強さを持っていた。

こんなにも簡単に私に触れるこの人に、気持ちを許しているのだ、と理解した。




「同じ事を、湊が言っていました。『雨の音がうるさいことよりも、音があるだけでいい』って」




声を絞り出して、手に力が入る。

私を掴む手の力は、緩むことはない。




「似てたか?湊さんに」




その言葉に頷く。

それ以外にどうすることもできなくて。



雨は激しくなるばかりで、窓を濡らし続けていた。

店内の音楽が静かに響いて、バーテンダーがラストオーダーを聞きに来た。

櫻井さんがそれに応えて、静かに目の前から離れていくのを見ていた。




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