だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





とんっ。




手のひらでおでこを押されて、私はそのままベッドに寝転がる。

それを見て、ふっと櫻井さんは笑った。


そして、立ち上がって上着を脱ぐ。

じっと私を見つめたまま。






「寝ろ」






上着からタバコを取りだしながら、そう言った。

身構えていた私は、きょとんとした顔をして櫻井さんを見つめた。




「お前、俺がそんなに強引に何かすると思ったのか?」


「はい」




即答した私に、櫻井さんは少しむっとした。

タバコに火をつけて、私に向かってふっと息を吹きかけた。




「ちょっと・・・っ!何するんですか!?」


「お前がくだらないことを考えるからだ。」




そう言って、拗ねたように目を逸らす。

まるで子供だな、と思ってその顔をじっと見ていた。




すると、私の視線に気が付いたのか、目線をこちらに戻してくる。

その目は、少し辛そうに目が伏せられていたけれど、そのままで笑っていた。


触れると泣き出しそうなその目に、なんだか私まで苦しくなる。

櫻井さんが、必死に何かを掴んでいるのがわかった。


自分の意識の中の大切なものを。




向けられている視線に、大切にされているのだと気付く。

本当に、大切に想ってくれているのだ、と。




< 127 / 276 >

この作品をシェア

pagetop