だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「わかりました。でも、化粧を落としたいです・・・」
「珍しく、女らしいこと言ってるな」
いつもの調子に戻って言う櫻井さんを見て、やっと力が抜けた。
ふっと笑うと、櫻井さんも安心したように息をついた。
「じゃあ、行くか」
「どこにですか?」
「お前の部屋」
「えぇ!?」
簡単にそう言った櫻井さんに、今度こそ唖然としてしまう。
けれど、今日はもう諦めることはしてくれないだろう。
私も、傍にいてもらってもいいのかも、と想っている。
結局、手を伸ばしてしまったのは私のような気がしている。
それを言えない事を先回りして、櫻井さんが手を伸ばしたようにしてくれたのだろう、と思った。
「わかりました。じゃあ、行きましょうか」
立ち上がると、冷蔵庫の開く音がした。
櫻井さんの手には、ビールが抱えられている。
寝る気はないのかも、とそのビールを見て思う。
「まだ飲むんですか?」
「お前が寝たら、することないからな」
なんだか、さっきまでの緊迫した空気がバカらしくなってきた。
それでも、この空気を作ってくれいることを、感謝せずにはいられなかった。