だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





化粧を落としてベッドに横になる。

目の前では、櫻井さんが窓を見ながら缶ビールを流し込んでいる。


少し眠そうな顔になっているが、それでも飲み続けるその姿に少し笑えて来た。



窓に当たる雨の音は、さっきよりも随分静かになった。

今は、さらさらと水の流れる音の方が響いている。




「寝ないんですか?」


「お前が寝るまでは、起きてる」




もう目を開けるのも辛くなってきたけれど、聞かずにはいられなかった。


櫻井さんは、楽しそうに笑っていた。

部屋はだいぶ冷たい空気に包まれている。

このままでは、風邪をひいてしまいそうなくらい。



シングルルームのベッドはそんなに広くはない。

けれど、二人で寝れないこともない広さだ。



ただ、ここに招き入れることは、櫻井さんにとっていいことなのかどうか、私は判断出来ずにいた。




「このままでも風邪ひいたりしないから、何も考えずに寝ろ」




私の考えなんてお見通し、とばかりに櫻井さんは笑った。

その顔を見て、この人にも私は敵わないんだな、と思った。


そう思ったら、なんだか色んなものが剥がれた気がした。




自分の持っているプライドも。

外で作っている顔も。

辛さを隠していることも。


湊を想い出して、揺れている自分を繕うことも。




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