だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「お願い、聞いてもらえますか?」
なんとか現実の端にしがみついて、言葉を向ける。
必死に開けている目は、しっかりと櫻井さんを捕らえている。
「なんだ?」
声のトーンが優しい。
それだけで、なんだか泣きそうになる。
ぐっと堪えていた。
まだ、泣いてはいけない、と思って。
「・・・一緒に、寝てもらえますか?」
これが私の本音だと、今知った。
湊を想い出す度、湊のぬくもりを探していた。
どうしてこんなにも櫻井さんに縋りたくないのか。
答えは簡単だった。
櫻井さんがあまりに湊に似ているから。
この人に触れてしまうと、湊の記憶を上書きされてしまいそうで怖かった。
私の中の湊が、本当にいなくなってしまうような気がして。
放つ言葉が。
伸ばされた手が。
見つめる背中が。
その、色素の薄い目が。
私の求める姿に、あまりに重なっていた。
苦しいほどに。
布団に顔を埋めて、漏れる嗚咽をどうにか抑える。
あまり意味のないことだと知っているけれど、そうせずにはいられなかった。
ただ、シーツに涙が落ちる音を聞いていた。