だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
がたん、と音がした。
椅子から乱暴に立ち上がる音が。
その音に顔を上げる。
でも、視界に移るのは白い色と薄いピンクだけ。
涙で滲んでいても、それが櫻井さんのシャツとネクタイだとわかる。
布団越しに私を抱き締める腕の力がとても強くて、私の涙を倍増させた。
「あんまり煽るなよ。必死に抑えてるんだ、色んなもの」
わかってる。
大事にしようとしてくれてること。
甘えてしまって、本当にごめんなさい、と想う。
けれど、今日だけは。
強い雨の日の記憶が、私を苦しくさせている。
大丈夫、と言っている。
何度も何度も。
助けて、と言う代わりに。
「何もしない。でも、一緒に寝させてくれ。ほっとけるかよ、こんなの」
ありがとう、と言いたいのに口からは何も出てこなかった。
ただ唇をかみ締めて、流れる涙を止めようと努力していた。
冷たい感覚が布団の中に滑り込んでくる。
胸の中に私が埋まる。
包む腕の感触が、胸を締め付ける。
背中をさする手の大きさが、切なくなる。
頭を撫でる手の冷たさが、苦しくさせる。
聴こえる鼓動の音が、少しだけ私を救ってくれる。
此処に、いる、と。