だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「此処に、いるよ」
同じ声で、同じ言葉を言わないで。
ただ、頷いて堪える。
でも、どうしても言っておかなくてはいけないことがある。
この人には、聞いて欲しいことがある。
どうして、今。
私がこんなに苦しいのか、を。
「・・・湊がいなくなって苦しいです」
精一杯の本音を、櫻井さんはどう聞いたのだろう。
ただ、腕の力が増していた。
力の入ったその手に、身を任せていた。
触れていいのかもわからずに、それでも何かを返したくて、そっと背中に腕を回す。
触れた背中はとても温かくて、私は本当に安心してしまっていた。
涙が眠気も連れてくる。
朧な意識の中で想った。
私は、きっとこの人を離せなくなる、と。
大切にしたい、と想い始めている、と。
「大切に、したい、です。今も、過去も」
「そうか」
「湊も、櫻井さんも・・・」
その言葉に、もう一度ぐっと力が入る。
その手が、私を離さない、と言っている。
現実を手放す寸前で、私もほんの少し力を込めた。
言った言葉が嘘ではないと信じて欲しかった。
何かを埋めるためではないと。
「・・・わかってる。わかってるから」
その声に今度こそ安心をして、眠りにおちていった。
雨の音が、私と櫻井さんを二人だけにしてくれていた。