だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





今日だけは一日レンタカーを借りて函館を回ることにしていた。

思ったよりも旅費は高くついたけれど、どうしても今日は車に乗りたかった。



昼間の函館山は車で上まで登ることが出来る。

山道の合間から見える海の色や木々の緑が、少しずつ秋の色に染まろうとしていた。



空が高くて、空気が澄んでいる。

現実離れしたこの空間を、今は体中で受け止めたいと思っていた。



頂上は少し風が強くて、肌に当たると少し寒いくらいだった。

持ってきていた上着を羽織り、ベンチに腰掛ける。



自動販売機で温かいミルクティを買って、それを手に持っていた。

あまり得意ではないミルクティも、寒さを和らげるには最適だった。




『夜に来るよりも好きかも』

『寒いから、上着持ってくればよかったね』

『走らないの、危ないから』

『待って!』




周りの声に耳を傾ける。

私は一人だけれど、地元の人なのか観光客なのかわからないような人は沢山いた。



例えば、小さな子供を連れたお母さんとその友達らしき人。

スーツ姿の関西弁の男の人が三人。

少しご年配のご夫婦。

大学生くらいのカップル。

お母さんと来ているらしい二人組み。


他にもまだまだ人はいた。



平日の昼間なので、混んでいる、という印象はないけれど、想像よりも多くの人がいたことに、少しだけほっとした。




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