だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
『冬の景色で、どこか好きなところはあるか?』
森川に唐突に聞かれたのを思い出す。
急には出てこなくて、少し考え込んでしまった。
私は旅行には行くけれど、気に入った土地に何度も足を運ぶことが多い。
行きなれた土地と感じたことのある空気。
それが、私の求めるものだった。
ただ一つ出てきたもの。
それは、私が大切にしてきた場所。
「・・・洞爺湖の朝焼け、かな」
雪で真っ白になった湖畔と光に照らされる湖。
ホテルが並ぶ側から見る景色と、反対側から見る景色。
どちらも綺麗だけれど、私は湖畔でそれを眺めるのが好きだった。
冬は太陽の位置が低い。
そこから全面に差し込む光が、とても印象的だった。
朝日のはずなのに、少しだけオレンジが混ざっているかのような眩しさ。
朝もやのかかる景色が、何故かとても切なかったのを憶えている。
一緒に見ていた。
だから、余計に。
始まりが、終わりを連れてくることをどこかで感じていた。
「洞爺湖か・・・。いいな、身近で」
「そう?なんだかありきたりで申し訳ないね。でも、それくらいしか思いつかなかったんだ」
そう言うと森川は首を横に振った。
そして、じっと私の顔を見つめていた。
なんだかすっきりした顔になっている。
何か、いい案が浮かんだのかもしれない。