だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
山の上でぼやけた街の景色を見ていたあの日。
櫻井さんの腕はとても力強くて、私を非道く安心させた。
けれど、同時に切なさばかりが積もって苦しくて仕方がなかった。
腕の中から抜け出そうと何度も身体をよじった。
力の入らない私の腕を抱えるように、櫻井さんはさらに強く私を抱き締めた。
涙で苦しいのか櫻井さんの強さが苦しいのか。
あの時の私には、それすらわからなかった。
どれくらいの間そうしていたのだろう。
私は泣きつかれて意識が遠のいていた。
泣き過ぎたせいで頭が割れるように痛い。
私の顔を心配そうに覗いた櫻井さんは、そっと頬に唇を寄せた。
それに応えることなんて出来るわけがない。
櫻井さんの目を見ずに、ただただ雨の流れる窓を見ていた。
反応すらしないことが、言葉もなく相手を深く傷つけることだと知っていた。
何の音もしない。
何も感じない。
何も出来ない。
力強かったはずの櫻井さん腕は、驚くほど怯えていた。