だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
『再び出逢った二人は結婚式を挙げる。そして、子供を育てる。同じように子供が大きくなって、孫が生まれて。最後はもう一度、湖の湖畔に立つんだ。二人で手を繋いで』
二人で歩いてきた年月の分、二人の握る手の強さは増すばかり。
同じ想いを、辛さも幸せも分け合って、その手に皺は刻まれる。
『そして、男が差し出す。小さな瓶を』
「それが今回の香水?」
そう、と言って受話器越しに森川が笑う。
どこか楽しそうに。
『香水の名前は、SNOW・DROP(スノー・ドロップ)。雪の耳飾りと呼ばれる冬の花の名前を取ったんだ。花言葉は『希望』』
聞いたことがある。
アダムとイブの物語に出てきた花だったような気がする。
雪に自分の白い色を与えてあげた、優しい花。
『けれど、その香水の名前を見て、女性は怪訝な顔をする』
「どうして?」
素敵なプレゼントだと想うのに。
『希望』だなんて。
『スノードロップは、相手に贈るとき花言葉が変わるんだ。『あなたの死を望みます』と』
なんて花言葉。
そんな花言葉をつけるなんて。
花言葉をつけた人に文句を言いたくなってしまった。
私の黙っている様子に、森川はくすくすと笑っていた。
『でも、女性は笑顔で受けとる。意味を知っているのにも関らず』
笑顔で。
その意味を知っているのに。