だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「プレゼン、通るといいね」
『そうだな』
そう言って、少しの間沈黙が流れた。
晴れた空の下にいるのに、さっきの森川の声で作られた映像が忘れられない。
オレンジに染まる湖畔で、皺だらけの手を繋ぐ。
そんな風に、いつまでも傍にいられることは、どんなに幸せなことだろう。
『まだ、函館か?』
「そうだよ。明日には、帰る予定」
函館。
そういえば、自分はそこにいるんだ、と森川の声で思い出す。
一人でいると感覚がおぼろげで、自分がどこにいるのか忘れそうになる時がある。
「ごめんね、プレゼン直後に電話したよね、私」
『気にするな。気になったままでいられるより、ずっといい』
森川の言い方は、私の心配をしてくれている言い方だった。
休みの私を気遣うことなんてないのにな、と考えながら、森川らしい口調に安心感を覚えていた。
『月曜日から、ボケずに出勤して来いよ。仕事、溜めてあるから』
「ボケないよ。それより、あんまり溜めすぎないでよ。一週間分の事後処理って、かなり頭フル回転なんだから」
森川は楽しそうに笑っていた。
本当はそんなに溜まっていないだろうに。
そんなことくらい、会社に行かなくてもわかるけれど、早く出て来いよ、という森川のメッセージだと思った。