だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
抱擁...ホウヨウ
一昨日の朝。
温かい感触が少し動くのを感じて、ゆっくりと目を覚ました。
懐かしい温度が、すぐ近くにある。
ぼんやりとした頭で、どうしてこんなに落ち着くのだろう、と考えていた。
目の前には、白いシャツとピンクのネクタイ。
触れている感覚は、少し硬くてなんだか触り心地が悪かった。
少し動くたびに、それにあわせて優しい手が私をゆるく抱いていた。
そして、想い出す。
そこにいるのが、夢の中でしか会えない人ではないことを。
重いまぶたをそっと上に向ける。
それに気が付いて、私を包んでいた腕が少しだけゆるめられた。
そして、私が動きやすいようにスペースを作ってくれていた。
「おはよう」
その声は、どこか恥ずかしげで、それでもとても幸せな響きを連れてきた。
声の主は少し充血した目を私に向けていた。
とても優しい顔で。
「・・・おはようございます、櫻井さん」
なんだか顔を見られるのが恥ずかしくて、合わせた目はすぐに逸らしてしまった。
それを見て頭の上からくすくすと笑う声がする。
すぐ近くから聴こえるその音に、私の全ての神経が反応しているようだった。
「目が腫れてるぞ。それ、なんとかしないとな」
そう言って、遠慮がちに指を寄せる。
あの医務室で感じた触り方で。