だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「・・・帰るか」
その言葉と同時に、震えたような櫻井さんの手は私の身体から離れた。
離れた場所からどんどん冷たくなっていく気がした。
自分の身体が自分のものでないかのように、言うことを聞いてくれない。
自分の肩を両手で抱き締める。
今度は、私が震えていた。
「・・・はい」
何とか絞り出した声は、櫻井さんを安堵させるのに十分だったようだ。
シートベルトをして静かに車が動き出す。
窓に当たる雨粒の音が車内には響いていた。
カーステレオから流れる曲は静かな音楽ばかり。
櫻井さんにはあまり似合わない気がした。
その曲に耳を傾ける。
そして、はっとした。
思わず顔を上げて櫻井さんを見る。
まだ少し涙の溜まった目は、きっと驚きで見開かれていたのだろう。
「そんなに驚くな。もう不思議じゃないだろう」
先回りをして櫻井さんはそう言った。
わかっていても、櫻井さんと湊の繋がりを見つける度に驚いてしまう気がしていた。
「俺は、あんまりこういうの聞かないからさ。湊さんが『聞いてみろ』って」