だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「あんまり、見ないで下さい。腫れてるの結構恥ずかしいんですから」
「そうか」
くすぐったそうに会話をしながら、私に触れることをやめない。
櫻井さんがこんなにも近くにいることに、緊張よりも安心感を感じてしまった。
きっと、簡単にこの距離を崩してしまうことも出来たはず。
けれど、櫻井さんはしなかった。
何ひとつ。
この歳になって、本当に一緒に寝るだけでいい、と言ってくれる人はとても少なくなった気がする。
どちらかに好意があればあるほど。
一緒に寝る、と言うことは、そういうことだ。
ただ昨日の私が放った言葉に、その意味は含まれていなかった。
純粋に傍にいて欲しい、と想った。
そして、それが誰でもよかったわけではない。
櫻井さんに、傍にいて欲しいと想った。
「櫻井さんこそ、目が真っ赤ですよ?・・・って、私のせいですよね。すみません」
自分で言って、自分で気付いてしまった。
私がしたことは、きっと櫻井さんにとって辛いことだったに違いない。
結局、相手を苦しめることしか出来ないのだな、と感じてしまった。
「そうじゃない」
そう、きっぱりと櫻井さんは言った。
そうじゃないんだ、と繰り返して。