だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「確かに、傍にいることで緊張はしたけど、嬉しかった。やっと縋ってくれた、と想って。そしたら、ゆっくり寝息を立てる時雨を見ていたいと想った。その顔を、その呼吸を、そのぬくもりを。憶えていたいと想った」
私を呼ぶ声が、いつもと違うことに気が付く。
時雨、としっかりとした漢字の響き。
そんなことのために、目を真っ赤に充血させるまで起きていたのだ、と知る。
私の顔を見るために。
私の呼吸を感じるために。
私の温度を憶えるために。
「またいつ縋ってくれるか、わからないからな。お前は一人で頑張りすぎるから」
『見ていたよ、いつも』と言う声が聴こえそうだった。
一人で頑張って立っていて、それなのに結局、誰かに甘えている。
それも、自分に都合のいい相手に。
それすら嬉しい、と櫻井さんの声が言っていた。
そのまま、もう一度力をこめた。
私は、その力に逆らうことはしなかった。
「此処に、いてくれるだけでいい。今はそれ以上はいらない」
その声は、私の胸を切なくさせた。
それと同時に、自分の存在をそんなにも認めてくれる櫻井さんに、胸がいっぱいになった。
この感情が何かわからなかったけれど、私の胸の中を熱くしたのは確かだった。