だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「・・・ありがとう、ございます。それと、時間を下さい。もう少しだけ」
自然と言葉が漏れた。
言葉と一緒に、涙も流れた。
それに気が付いた櫻井さんが、私の顔を自分の方に向ける。
冷たい手が、私の顔を持ち上げていた。
そっと触れる手が、一つずつ涙をすくっていた。
その冷たさに、また溢れそうになる涙を何とか堪えた。
「その顔は、反則だな」
少し苦笑いをして、私の顔を自分の胸に引き寄せた。
櫻井さんの腕の中で、私は必死に考えていた。
このぬくもりを、手放すことが出来るかな、と。
考えがまとまらないうちに、そっと腕を回して櫻井さんに触れる。
細い身体のはずなのに、引き締まった筋肉が逞しさを強調していた。
肩甲骨に触れた私の手に、無意識に力が入る。
自分とは違う男の人の身体に、自分の身体を預ける。
これから先、私たちがどんな風に変わっていくのか、今は何もわからない。
もしかしたら、このまま縋ることは出来ない、と突き放す日が来るのかもしれない。
期待をさせていて、そこからこの手を離したとき、私は信じられないくらいこの人を傷つけることになるだろう。
今、ここにあるぬくもりはとても優しくて温かい。
それだけは、変わらずにいて欲しいと強く想った。