だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
食べ終わった包み紙を小さく折りながら、考えていた。
さわさわ、と揺れる緑の木々に囲まれながら。
櫻井さんが、どうしてそんなに私のことを想ってくれているのかを。
実際に話をし始めたのは、この会社に入ってからでしかない。
その前は、『櫻井圭都』という存在さえ、私は知らなかったのだ。
櫻井さんは、湊から私のことを聞いて知っていたかもしれない。
けれど、湊の口から聞いた私の存在だけで、そんなにも想い続けていられるものなのだろうか、と不思議になった。
まして、『湊の大切な人』と認識していた私を、どうして恋愛対象にすることが出来たのだろう。
人の気持ちを探ったところで、それはわからないことなのかもしれない。
自分以外の人の気持ちを、余すところなく正確に理解することなんて不可能だ、と知っている。
疑って。
確かめて。
探って。
伝えて。
繰り返されるその連鎖の中で、結局信じることしか出来ない。
それは、私たちが一人の人間として成り立っている限り、仕方がないことなのだ。
もどかしくて、苦しいばかり。
理解できなくて、戸惑うばかり。
疑うことでしか、相手を確かめられないことばかり。
信じる強さ、なんて綺麗ごとだ。