だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「たまに聴きたくなるんだよな。気持ちが落ち着くっていうか、当然のようにそこに流れるみたいで」
そう言った櫻井さんは、とても穏やかな顔をしていた。
自分の気持ちを落ち着かせるのが、本当に上手。
傾いた気持ちを元に戻している。
いや、きっとまだ揺れている。
それでも。
それを私に見せない強さを持っているのだと思った。
「でもこれは、きっと。お前の為に作られたもの、なんだろうな」
その言葉に小さく頷いた。
二人きりのリビングで過ごす時間の為に、湊は沢山の曲たちを集めてくれた。
そしてそれは、毎日の中で贈られる湊からのメッセージだったのだ。
「懐かしい曲ばかり」
「そうか」
「はい。曲順まで、憶えてますから」
そう言って、また窓の外を見る。
櫻井さんは何も言わなかった。
ただ、信号で止まるたびに心配そうな目線がこちらに向けられるのを感じた。
その目を見ることは出来なかった。
だから私はずっと、窓の外を流れる景色を見ていた。