だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「人間には、パブリックな顔とプライベートな顔がある」
「え?」
「心理学では、そう言われています」
「あ、はい」
「僕がどうして左側に座ったのか、わかりますか?」
唐突な質問に、顔を上げて廣瀬さんを見る。
にっこりと笑った顔は、すでに答えを用意している顔だった。
けれど、私はその答えを知っていた。
「左側の顔には、プライベートな顔、潜在意識が表れる。それは、本当の心が見えるから、ですか?」
廣瀬さんは少し目を見開いた。
そして、ゆっくりと笑った。
「ご存じでしたか」
「はい。右側には理性が、左側には本能が表れる、と言われていますよね」
その言葉に頷いて、廣瀬さんは私をじっと見つめていた。
出来る限り表情を崩さないように、と思っていても上手くはいかなかった。
「とても、苦しそうな感じがしていたんですよ。表情が」
苦笑いを浮かべて、それに応える。
あんまり見抜かないで欲しいな、と思って。
初めて会った時も、廣瀬さんは私の左側にいた。
その時にも少し居心地の悪い感じがしていた。
大きな目に映る私の姿が、少しでもぼやけて見えているように、と思っていた。
「廣瀬さんに見られると、色んなものが透けてしまう気がしますね。その目のせいですか?」
苦し紛れに出た言葉は、非道く痛々しさを連れてきてしまった。
吐き出してしまってから後悔しても、それはもう遅すぎた。