だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





「山本さんは、秋が好きと言っていましたね。空気や景色が移り行くから、と」




突然出たその問いかけに、驚いて顔を向ける。

あんな他愛もない話を覚えている記憶力に、やっぱり少し苦しくなった。

色んなものを掴まれているような気になって。




「前に聞いた理由以外にも、何かありますか?好きな理由」




秋が好きな理由。

沢山ある。

吸い込む空気やその景色以外にも。

移り行く季節を感じる以外にも。



秋は空がとても高い。




「寂しさを、連れて来てくれるところ、ですかね。私一人が寂しいわけじゃない、と教えてくれるんです」




苦しいほどの青を目に映しながら言った。

青は爽やかな色だけれど、悲しい色でもあるのだ、と思う。




「それに、傍にいる人の大切さを、教えてくれる季節だと想うんです。長い夜を一緒にいられる、これ以上ないほど幸せな季節だと」




秋の夜は長い。

静かで穏やかで。

虫の声と風の音と。

激しい雨が降る夜もあるけれど、一年で一番雨の少ない季節。


静かに冷たく降る雨は、何の口実がなくても寄り添える季節。




「本当に無防備な人ですね。隣に誰かいて欲しい、と聞こえますよ?」




その言葉に、廣瀬さんの方を向く。

廣瀬さんは笑っていたけれど、少しだけ目の奥が笑っていないように見えた。


作った笑顔ではなく、本当に満面の笑みで目を合わせる。

だって、自然とその顔になってしまうから。

想い出すだけで、笑顔になれるから。





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