だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「そうですね。でも、誰でもいいわけじゃないんですよ、これでも」
誰でもいいわけではない。
むしろ、たった一人でよかったのに。
その一人ではない誰かに、なってしまわなければいいのに。
「本当に芯の強い人ですね。隙がなくて困ります」
いたずらっぽく笑って、廣瀬さんは言った。
その言葉に出来る限り女らしい顔で応える。
廣瀬さんは、驚いた顔をして私を見つめていた。
「それが意地ですから」
篠木は、私の笑顔が手も足も出ないものだと教えてくれた。
自分ではよくわからないけれど、私は落ち込んだり悩んだりするよりも笑っている方がいい、ということなんだろう。
それに、今は自然と笑顔が浮かんでくる。
意地でもいいから、守りたいものがある。
大切な想い出も。
忘れられない空気も。
脳裏に残る匂いも。
「だから圭都が惹かれるんでしょうね。揺るがない気持ちと、不安定さが混ざる。目が離せなくなるんですよ」
そう言って、見たことのない真剣な目が私に向けられていた。
廣瀬さんが何を考えているのか、何を見つめているのかわからないけれど、その視線に目を向ける。
息が苦しくなるほどの沈黙に、ただ身を任せていた。